貿易業務における在庫計上のタイミングと在庫単価

貿易業務における在庫計上のタイミングと単価

貿易業務を行っていると、在庫の計上や在庫単価(評価)について、どのタイミングで何をすれば良いのかお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回は、貿易取引における在庫計上のタイミング、在庫単価の決め方など基本的な手法について解説します。

物があるのに在庫じゃない?

在庫の計上において、一番難しいのは計上のタイミングです。どうしても「在庫=物がある」と考えてしまうため、荷物が届いたら「在庫になる」・入荷前なら「在庫にならない」と勘違いしがちですが、そうではありません。
物があっても「在庫にならない」・物がなくても「在庫になる」場合があるので注意が必要です。

要するに、実物が手元にある「業務上」の在庫と、資産としてみる「会計上」の在庫の違いが、何となく複雑にしています。

会計上の在庫

会計上の在庫

では、会計上の在庫とはどういう事なのかを確認しましょう。
商品を買った時には、その対価を支払います。

要するに100円の商品を購入した場合、現金が100円失われ、代わりに100円の品が在庫になるので会社の“資産”としてはプラスマイナスゼロになります。これを、貸借対照表で記載すると次のようになります。

借方貸方
商品¥100現金¥100

ですから、物が倉庫に無くても、商品代金を支払った(実際に現預金が減った)場合は、その対価として、相手方の倉庫にあっても立派な自社の資産=在庫になります。

在庫計上のタイミング

在庫の計上とは、会計上の在庫の事を指します。
よって、物があるか無いかではなく、会社の資産になった時点が計上のタイミングということになります。

具体的には、キャッシュで支払った場合は現預金が減ったタイミング、掛けで購入した場合は負債(買掛金)が発生した時点ということになります。
貿易の場合、代表的は取引条件(インコタームズ)がありますが、その取引条件によって在庫計上のタイミングが変わってきます。

主なインコタームズ

略字取引条件内容
EXWEx Works出荷条件は「工場渡し」です。売主は商品を売主の敷地(工場)で買主に譲渡し、その後の運賃、保険費用、リスクはすべて買主が負担します。
FCAFree Carrier運送人渡し条件です。売主は指定された場所(積み地のコンテナヤードなど)で運送人に商品を引き渡すまでの一切の費用とリスクを負担し、それ以降の運賃、保険料、およびリスクは買主が負担します。
FASFree Alongside Ship出航港渡し条件です。売主は、船に積み込むまでの荷役の費用を負担し、それ以降の費用およびリスクは買主が負担します(売主は、船に積み込む必要はありません)。
FOBFree On Board本船甲板渡し条件です。売主は、積み地の港で本船に荷物を甲板に積み込むまでの費用を負担し、それ以降の費用およびリスクは買主が負担します。
CFRC&F Cost and Freight「運賃込み」です。売主は、積み地の港での費用、海上運賃を含む、荷物を船に積み込むまでの費用を負担します。ただし、それ以降の保険料およびリスクは買主が負担します。Incotermsの1990年の改訂以前には、この条件は「C&F」と呼ばれ、現在でも時折「C&F」と呼ばれることがあります。
CIFCost, Insurance and Freight「運賃、保険料込み(CIF)」です。売主は、積み地の港での費用、仕向地までの海上運賃、および保険料を含む、荷物を船に積み込むまでの費用を負担します。ただし、それ以降のリスクは買主が負担します。
CPTCarriage Paid To「輸送費込み条件」です。売主は、指定された場所(積み地のコンテナ・ヤード等)で商品を運送人に渡すまでのリスクと海上運賃を負担します。それ以降のコストとリスクは買主が負担します。CPT条件では保険の取り決めは明示的にはされていませんが、通常、リスクを負担する買主が保険を手配するのが一般的です。
CIPCarriage and Insurance Paid To「輸送費込み条件」です。売主は、指定された場所(積み地のコンテナ・ヤード等)で商品を運送人に渡すまでのリスク、海上運賃、および保険料を負担し、荷揚げ地からのコストとリスクは買主が負担します。
DATDelivered At Terminal「ターミナル持込渡し」です。売主は指定された目的地(ターミナル)までのコストとリスクを負担します。ただし、当該仕向地での輸入通関手続きと関税については買主が負担します。売主は貨物の荷降しを行います。
DAPDelivered At Place「場所持ち込み渡し」です。これはDATと似ていますが、違いとして、引き渡しはターミナル以外の場所、トラックや船舶を含む任意の場所で行われ、貨物の荷降しは買主が行います。

いずれの取引条件でも、“商品代金を支払う義務が発生した時点”で、在庫計上を行うことになります。

積送中(あるいは洋上)という考え方

例えば、FOBの場合、船会社によって貨物の輸出者に対してB/L(Bill of Lading)が発行され、裏書(B/Lの裏面に署名する)をしてB/Lを引き渡すことにより権利の移転になります。
よって、船に積んである荷物の権利が買主に移転します。

移転した段階で支払義務が発生しますので、在庫を計上するのですが、実際には物が到着していないので、倉庫にある通常の在庫とは分けて管理する必要があります。
会計上のそれが“積送中”あるいは“洋上”と言う考え方になります。

例えば、決算において、実棚卸を行って在庫資産を確定させても、未だ実在庫になっていない分については、“積送中在庫”あるいは“洋上在庫”として資産計上しなければなりません。
計上しないと支払った(あるいは買掛などの負債を負った)対価の物(商品)が無いことになり、商品仕入れでは無く前払金となってしまいます。

在庫単価と評価方法

在庫単価と評価方法

海外から仕入れた場合、商品の単価が外貨の場合が多いと思います。
その場合は必ず円貨にする必要があります。

在庫になったタイミングで現金(送金)で支払ったのであれば送金レートにて円換算します。
買掛などの負債で処理した場合は未だ実決済されておらず、決済レートが確定していないので、一旦は計上レートで円換算します。

商品の外貨単価に決済レートあるいは計上レートを掛けて円換算したものが在庫金額になりますが、貿易の場合の商品単価にはもう一つの問題があります。
貿易取引に発生した運賃や保険料などは、取引量があきらかに少ない場合は事務の簡素化として経費計上が認められる場合もあります基本的には経費として計上できず、商品原価に含める必要があります。

通関料や船賃、保険料などの「諸掛り」と呼ばれる付帯経費については、商品に配布(案分)する必要があります。
数量で案分するのか、金額で案分するのかは夫々の付帯経費の性格によって最適な案分方法で案分する必要があります。
1隻に複数INVOICEだったりすると、経費の配布を電卓&手計算で行うのは至難の業になってきますので、どうしても専用システムが必要になる部分です。

ここで、単純な疑問が生まれる方もおられると思います。
「付帯費用は毎回変わるので、在庫も仕入れる度に単価が変わるのでは?」そうです。その通りです。

ですから在庫の評価方法についても、付帯費用を案分した結果の商品毎の「総平均」なのか「個別原価」なのか「最終仕入原価」を決めておく必要があります。
いずれにせよ正確な原価の算出が必要不可欠です。

【まとめ】貿易業務における在庫計上のタイミングと在庫単価

在庫の計上はその商品の対価を支払った(買掛などの負債を負った)タイミングで行い、その単価は付帯費用(諸掛)を含んだ金額で無ければならない事は理解いただいたと思います。

実務では、前払金があったり、一部為替予約していたりと決済のレートが単一では無く、外貨建ての在庫単価を円貨する計算が複雑な場合もございますが、しっかりと基本的な考えを理解し、付帯費用についても根拠のある配布方法で行うようにすれば問題ありません。

在庫の計上と単価計算をしっかりしていれば、帳簿上の資産も正確に捉える事ができますし、利益もより正確に把握でき、利益向上に繋がるとおもいます。

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