貿易業務における為替差損益と決算仕訳をわかりやすく解説
外貨取引を行っている会社の経理を担当していると、外貨建ての取引時に発生する為替差損益の計上方法や、外貨買掛金残、外貨売掛金残いわゆる債権・債務がある場合の決算の時の仕訳など、どうしたら良いのかお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、外貨建て取引における会計処理について解説いたします。
目次
為替差損益におけるは2つの意味
為替差損益には大きく2つの意味があります。
一つは外貨建取引における為替差損益、もう一方は外貨建預貯金における為替差損益です。
後者は実際に日本円にするまでは損益が出ている訳ではないので、評価損益と言えます。
外貨建取引において注意が必要なケースとは
では、外貨建取引とはどういう取引が該当するのかを確認しましょう。
外貨建取引とは「売買価額やその他の取引価額が外国通貨で表示されている取引のこと」となっています。
要するにドルやフランなど円以外の外国通貨で取引を行う事を指します。
また、実際に外国通貨で取引を行なわず、商社などを利用して取引を代行してもらっているので外貨建取引と思っていても、取引時のレート変動で発生した為替差損益をこちらが負担する場合は外貨建取引に該当するので注意が必要です。
外貨預金とそのメリット
外貨預金とは、自国の通貨以外の外国通貨を金融機関に預けることを言います。
一般的には、銀行や金融機関が色々な外国通貨の預金口座を提供しており、これらの口座を利用して外国通貨を預けることを意味します。また預け先によっては、外貨を運用することで一定の利息が付与される場合もあります。
外貨預金を行う理由は様々ですが、一般的には決済時に都度、円から外貨・外貨から円と両替していると、手数料や為替相場の変動リスクを受けやすくなります。同じ通貨での売買がある場合はそのまま外貨でやりとりする方がはるかに効率的である為です。
また、為替レートの変動によって自国通貨が急激に安くなった場合でも、外貨預金によって外国通貨を保有している場合は資産の価値を守ることができます。
外貨建て取引における為替差損益とその仕訳
外貨建取引時に発生する為替差損益を簡単にいうと、為替レートが1ドル110円の時にワインを10ドルで海外から仕入れた場合の仕訳は以下の通りになります。
ワイン=$10 X 為替レート110円 = 1,100円
借方 | 貸方 | ||
仕入 | ¥1,100 | 買掛金 | ¥1,100 |
その後、買掛金の支払日に為替レートが120円(円安)になっていたとすると、ワインの代金は
ワイン=$10 X 為替レート120円 = 1,200円
となり、1,200円支払わなければなりません。仕入時との差額が100円発生してしまいます。 これを為替差損と言います。
外国の仕入先から見ると、為替レートに関係なく、「10ドルで売ったんだから10ドル払ってくれよ」と言う事になります。簿記はあくまで発生ベースで都度円貨して記帳しなければならず、買掛金発生時の評価レート、買掛金の支払時の実レートでそれぞれ円換算して記帳する必要があります。
為替差損が発生した状態で当座預金から支払ったとすると、仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | ¥1,100 | 当座預金 | ¥1,200 |
為替差損 | ¥100 |
「為替差益」と言う聞きなれない勘定科目が登場しましたね。
逆に、買掛金の支払日に為替レートが100円(円高)になっていたとすると、10ドルのワインの代金は
ワイン=$10 X 為替レート100円 = 1,000円
となり、1,000円の支払でよくなります。これを為替差益と言います。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | ¥1,100 | 当座預金 | ¥1,000 |
為替差益 | ¥1,000 |
為替差損益は、商品の仕入時、支払時で発生する以外に、外貨建てで商品を販売した時と入金された時でも発生します。
海外に商品を販売した場合を例に取ると、為替レートが1ドル110円の時に日本酒を10ドルで海外に販売した場合の仕訳は以下の通りになります。
日本酒=$10 X 為替レート110円 = 1,100円
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | ¥1,100 | 売上 | ¥1,100 |
その後、10ドルの売掛金に対して10ドルの入金があった時、入金日の為替レートが120円(円安)になっていたとすると、日本酒の代金は
日本酒=$10 X 為替レート120円 = 1,200円
となり、1,200円入金された事になります。 売った時は1,100円だったので為替差益が100円発生しました。
実際に当座預金に入金されたとすると、仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | ¥1,200 | 売掛金 | ¥1,100 |
為替差益 | ¥100 |
逆に、入金日の為替レートが100円(円高)になっていたとすると、10ドルの日本酒の代金は
日本酒=$10 X 為替レート100円 = 1,000円
となり、売った時は1,100円だったので為替差損が100円発生してしまいます。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | ¥1,000 | 売掛金 | ¥1,100 |
為替差益 | ¥100 |
商品を仕入る場合に前払い、商品を販売する場合に前受金をもらえば、買掛金・売掛金が発生せず、仕入・販売時に為替差損益が発生する事が無くなります。
為替変動が激しい際には前払金、前受金を使って為替リスクを回避する方法もありますが、仕入先・販売先との関係上、なかなか難しい場合は、「為替予約」と言う手段もあります。
「為替予約」については、別の記事で紹介しています。
外貨預金・債権債務における決算処理と損益計算書
実決済時に為替差損益が発生した場合の仕訳についてお話してきました。
次に買掛金・売掛金が残っている状態で、決算時期を迎えてしまった場合の処理についても考える必要があります。
買掛金も売掛金も実際には決済していないのですから「為替差益」も「為替差損」も確定していませんので、何も処理しなくても良さそうなのですが、実際は違います。
例えば、有価証券を保有していた場合、決算時にはその時の株価に基づいて金額(時価)を算出し「評価額」なるものを計算しなくてはなりません。そして、算出した「評価額」と有価証券のその年度の期首簿価との差額を「評価損」や「評価益」として計上しなければならないのです。
同様に外貨建て取引における買掛金残・売掛金残、先にお話しした外貨預金も期末時点で残高がある場合は、その発生時と期末の為替レート(期末評価レート)との差を算出し、評価しなければなりません。
評価と言っても、為替は都度変わりますので、あくまでも“決算時の一時的な評価“と考えた方が良いと思われます。よって、多くの会社では、決算時の為替差損は次年度の期首に逆仕訳を起こすケースが見られます。
但し、損益計算書には為替差損益が影響してきますので、外貨売掛金残があり円安になっていればその分利益が増えますし、外貨買掛金残があり円安になっていれば利益が減る事になります。
決算処理では売掛金残・買掛金残の発生時レートと期末評価レートの差を一件、一件、評価せねばならず、地味に面倒な事務作業になります。
ですから、日頃から売掛金・買掛金の発生時に表計算ソフトに記載しておけば決算時の処理は比較的楽になります。
表計算シートの例(買掛金)
このようなシートを得意先別に作成し、日々の入力では(黄色)の部分を、決算時に(赤色)の部分に「期末評価レート」を入力すれば、決算時に為替差損益が楽に計算ができます。
評価の結果、決算時に為替差損益がマイナス\10,000円になっていたとすると、期末の仕訳は以下のような仕訳になります。
借方 | 貸方 | ||
為替差損 | ¥10,000 | 買掛金 | ¥10,000 |
そして、翌年度の期首に以下の仕訳を起票して、差し引きゼロにしておきます。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | ¥10,000 | 為替差益 | ¥10,000 |
そうする事で、翌期の期中にて買掛金残・売掛金残に対し、支払いや入金があっても、前述と同じように処理できます。
為替差損益のよくある質問
【まとめ】貿易業務における為替差損益と決算仕訳をわかりやすく解説
「貿易業務における為替差損益と決算仕訳をわかりやすく解説!」というテーマで執筆しましたが、解説してきました。
わかりやすく説明してきたつもりなのですが、ご理解いただけましたでしょうか?
実務では、前払金や前受金があったり、為替予約していたりと複雑な場合もあります。
一言で言えば期中は「発生時レート」と「決済時レート」の差、期末は「発生時レート」と「決算評価レート」をそれぞれ算出し、差額が発生していれば、為替差損益として起票するといった明快な内容です。
また、為替のリスク回避についてはその時の為替情勢や経営判断が伴うものであり、一概に何が正解と言うものでもありません。海外との取引は貿易統計をみても年々増加の一方です。通貨の違う国との取引には為替と言うやっかいな壁がございますが、海を越え、文化を超えての取引は魅力的ではありませんでしょうか。
本記事を執筆したのは、創業30年、貿易システムの開発・販売を展開している株式会社サンプランソフトです。
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