安全保障貿易管理(輸出管理)とキャッチオール規制リスト規制

安全保障貿易管理(輸出管理)とキャッチオール規制・リスト規制

日本から海外へ輸出する商品としては、自動車等の輸送用機器、半導体等の電子部品、プラスチックや非金属、食料品など様々です。
商品を輸出する時、国内で取引できているからと言って、同じように海外の顧客に商品を手配し販売できるかというと、必ずしもそうではありません。
どんな商品をどの国に輸出するのか、申請し許可が必要な場合があります。

そのため、日本から輸出する商品は「安全保障貿易管理(輸出管理)」という、先進国を中心とした国際的な枠組みの中で、日本で取り決めている輸出に関する規制(リスト規制・キャッチオール規制)で管理しています。
このコラムでは、「安全保障貿易管理(輸出管理)」とはどういうことなのか、どんな規制があるのか、簡単にまとめました。

安全保障貿易管理(輸出管理)とは

「輸出」というと、商取引で日本から海外へ商品を発送し、販売することを想像します。
販売側は、輸出した商品が、想定している用途で利用され、ご購入いただいたお客様に役立てられていると思いますよね。
しかし、商品によっては、該当商品そのもの、あるいは商品の設計、製造方法等の技術情報が、販売側の意図とは異なり、平和的に使用されるのではなく、大量破壊壁等に転用される恐れがあります。

例えば、以下の通りです。

  • 工作機械(自動車、精密機械等)
    ⇒核燃料の製造に用いる濃縮製造装置、ミサイルの製造に転用利用
  • ろ過器(海水の淡水化、有害物質の回収)
    ⇒細菌兵器の製造のための細菌の抽出に転用利用
  • 化学品(シアン化ナトリウム)
    ⇒化学兵器の原材料に転用利用
  • 先端材料(航空機製造原料の炭素繊維)
    ⇒ミサイルの構造材部品、核燃料加工装置に転用利用

「輸出」した商品や、その商品に関連する技術が、もし、大量破壊兵器等や通常兵器の開発等を行っているような国等に渡ってしまったら、国際的な脅威となります。
※大量破壊兵器:核兵器や生物、化学兵器 等
※通常兵器:大量破壊兵器以外の武器。地雷、戦車、軍艦、戦闘機、大砲、ミサイル、けん銃などの小型武器まで多岐にわたる

ここで、様々な輸送方法で運ばれる物品の総称として「貨物」、その「貨物」の設計、製造または使用に必要な特定の情報である技術データ、技術支援の形式で提供されるものを「技術」とします。
先進国が保有する軍事転用可能な「貨物」「技術」が、日本及び国際社会の安全等を脅かす恐れのある国家やテロリスト、あるいは懸念活動を行う恐れのある者等(それが民間企業であっても)に渡ることを防ぐ必要があります。

世界の平和を維持するため、日本を含む先進国が中心となって国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)を作り、国際社会と協調して輸出等の管理・規制を行っています。
これを、「安全保障貿易管理(輸出管理)」といいます。

国際的な枠組みである「国際輸出管理レジーム」は、大量破壊兵器、通常兵器、並びにそれらの開発に用いられる技術や物品の移動制限を多国間で取り決める安全保障貿易管理の枠組みです。

日本では、「国際輸出管理レジーム」での合意を踏まえ、外国為替及び外国貿易法に基づき実施しています。

安全保障貿易管理(輸出管理)の対象について

「国内から海外へモノが移動する」と考えると、商取引の「貨物」だけではなく、材料、試料、化学物質、生物及び生物リソース、その他の物質、機器・装置・その他の資機材等も該当します。
また、日本で研究・開発された高度な「技術」の「海外への移動や情報提供」も同様です。

例えば、以下の通りです。

  • 海外の展示会のため、一時的に商品を持ち出す
  • 海外の機関に評価してもらうため、日本から試作品を送る
  • 海外から送られてきた商品を返品・修理するために、海外へ送る
  • 自分が使用して持ち帰る装置を携行して出国する
  • 技術データや設計図の提供やUSBメモリに入れて持ち出す
  • メールやクラウドサービスによる技術提供
  • 海外からの研修生受け入れ、技術指導、海外での技術指導
安全保障貿易管理(輸出管理)の対象について

上記例は、「安全保障貿易管理(輸出管理)」の対象となり、大きく、①「貨物」の輸出、②「技術」の提供に該当します。

  • 「貨物」の輸出
    個人・法人や規模に関係なく国境を超える全ての「貨物」
  • 「技術」の提供
    海外へ「技術」をEメール等で渡す
    海外へ「技術」情報が記録されたUSBメモリ等持ち出す
    国内の非居住者または特定類型に該当する居住者へ「技術」を渡す

※国内の非居住者と特定類型に該当する居住者の定義は、「外国為替法令の解釈及び運用について(抄)」に記載しています。

例:国内の非居住者
  外国に居住している日本人や外国人、日本企業の海外赴任している日本人、
  外国人の外交官 等
  特定類型に該当する居住者
  非居住者から強い影響を受けている居住者

但し、食料品、紙・木製品・事務文書は、輸出管理の対象外です。

安全保障貿易管理(輸出管理)の制度について

日本の安全保障管理(輸出管理)制度は、「国際輸出レジーム」の枠組みの下、外国為替及び外国貿易法、輸出貿易管理令、外国為替令、またに基づき実施しています。

リスト規制とキャッチオール規制について

規制の種類には、「リスト規制」「キャッチオール規制」の2種類があります。
これらの規定に該当する「貨物」の輸出や「技術」の提供には、経済産業大臣の許可が必要です。

①リスト規制
武器及び兵器の開発などに転用される可能性のある品目や仕様が “リスト化” されています。
リストに該当する「貨物」「技術」が規制対象です。

※規制対象の「貨物」は「輸出貿易管理令別表第1」の1項から15項、「技術」は「外国為替令別表」の1項から15項でリスト化されています。

また、各表の規定に基づき「貨物等省令」が定められ、機能や仕様(スペック)が規定されています。
対象となる地域は、全ての国・地域です。

注意点としては、以下の通りです。

  • 規制対象には複数の項目で規制される場合があります。
  • 法令に記載されている名称と一般的に使用される名称とは異なる場合があります。
  • 装置自体は非該当でも、部品や付属品が規制される場合があります。
  • 原則、毎年改正されます。

②キャッチオール規制
「リスト規制」に該当しない「貨物」や「技術」が規制対象です。但し、食料品や木材は除きます。

※規制対象の「貨物」は「輸出貿易管理令別表1」の16項、「技術」は「外国為替令別表」の16項で規定されています。
「キャッチオール規制」には、「大量破壊兵器等キャッチオール規制」「通常兵器キャッチオール規制」があり、各々対象地域や許可要件が異なります。

「大量破壊兵器キャッチオール規制」の対象地域は、「輸出貿易管理令別表第3」の地域(いわゆる「ホワイト国」)を除きます。
許可要件は、経済産業大臣より許可申請すべき旨の通知を受けた場合の「インフォーム要件」、該当兵器等の開発等に用いられる恐れがある場合の「用途要件」、該当兵器等の開発を行っている、または行っていた場合や外国ユーザーリストに掲載されている場合の「需要者要件」の3つがあります。

※外国ユーザーリスト:経済産業省が大量破壊兵器等を開発等の関与が懸念される
           企業や組織を掲載し公表しているリスト

「通常兵器キャッチオール規制」の対象地域は、国連武器禁輸国・地域(輸出貿易管理令別表第3の2)と、一般国(「輸出貿易管理令別表第3」の地域(いわゆる「ホワイト国」)と国連武器禁輸国・地域以外)に分かれます。

許可要件は、「インフォーム要件」と「用途要件」の2つがあります

安全保障貿易管理(輸出管理)の流れ

「貨物」や「技術」の引合いから、輸出・提供までの間に、以下の「安全保障貿易管理(輸出管理)」の手続きが必要です。
輸出管理の三本柱は、「該非判定」、「取引審査」、「出荷管理」です。
社内では、輸出担当部門、該非判定部門、出荷部門、輸出管理部門や責任者を明確に、各判定、審査をすることが重要です。

1.需要者からの「貨物」「技術」の引合い

2.該非判定:輸出する「貨物」「技術」がリスト規制に該当しているかどうかをチェック
     STEP1 対象特定
     STEP2 情報収集
     STEP3 法令との照合(経済産業省ホームページに掲載のマトリックス表を活用)
     STEP4 判定
     STEP5 社内の該非判定責任者の決済(該非判定書作成)

3.取引審査:「貨物」「技術」の需要者とその用途を確認し、取引を行うかを判断
     STEP1 用途、需要者等の確認
     STEP2 取引の可否の検討(経済産業省の許可が必要か、該非判定)
     STEP3 社内決済(取引審査票)
     STEP4 完了(許可が必要な場合、経済産業省への許可申請)

4.出荷管理:輸出前に「貨物」・「技術」の同一性、輸出許可証の有無を確認
     STEP1 出荷の指示(輸出許可取得後)
     STEP2 同一性の確認
     STEP3 完了

5.需要者へ「貨物」の輸出、「技術」の提供

 ※上図の出典元:「安全保障貿易管理」ガイダンス第2.4版令和7年1月(経済産業省)より

社内の取引審査後、経済産業省へ許可申請する場合、「個別許可」と「包括許可」があります。
「個別許可」は、個々の契約毎に許可申請であり、電子申請(NACCS:貿易関連の行政手続きと民間業務をオンラインで行うシステム)で行います。
 「包括許可」は、一定の範囲について包括的に許可を受けることができる制度の下で申請します。
5種類の包括許可(一般包括許可、特別一般包括許可、特定包括許可、特別返品等包括許可、特定子会社包括許可)があり、各々に許可要件を満たす必要があります。

【まとめ】安全保障貿易管理(輸出管理)とキャッチオール規制リスト規制

今回、「安全保障貿易管理(輸出管理)」について調べる中感じたことは、身近な自動車でもミサイル等の武器製造に使われるように、日本から輸出する商品が、知らない場所で、本来の用途とは異なる使い方で、自分の脅威となって帰ってくる可能性があることを認識したことで、輸出管理がいかに重要ということです。

このように重要なことなので、輸出管理を違反した場合、重い罰則や社会的制裁が課せられます。

そうならないよう、輸出者にとって「安全保障貿易管理(輸出管理)」は徹底すべき義務であり、社内での輸出管理体制を構築する必要があると思います。

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